「ジャパニーズ?」
「そうだよ」
「マスタツ?」
「?」
「マスタツ知らない?」
「知らない」
「カラテ、知らない?」
そして、もう一人の少年が、
「キョクシン、知らない?」と訊ねてきた。
キョクシン、キョクシン…そうか極真のことか。
彼らは極真カラテの創始者である大山倍達を知っているかと訊ねていたのだ。少年たちは立ち止まり、手にしているスポーツバッグのファスナーを引き開けた。そこにはカラテの稽古着と帯があった。彼らはこの町で極真カラテを習っていたのだ。
彼らは極真カラテがいかに凄いか、熱っぽく話し始めた。高段者になれば、いかに多くの煉瓦を割れるか。どれほど厚い板を破ることができるか。マスタツは一撃のもとに牛さえ倒すことができるのだ!
ローマとかミラノとかいった大都市ではなく、昨日まで名前も知らなかったイタリアの小さな町に、これほど熱心な日本製格闘技の信奉者がいる。
それは辺境の地でセイコーやパナソニックの広告を見ることよりはるかに感動的なことだった。】
沢木耕太郎「深夜特急」より
これは1974年の頃だ。
時々極真の道着を来た子どもを街で見かける。そんな時は嬉しくなって駆け寄り、極真カラテやっているの?と話しかける。最後は「頑張ってね、押忍!」と言って別れる。
国内だけでなく、世界中で同じ極真の刺繍が入った道着を着て、押忍!と通じる。考えてみれば当たり前のようだが、本当にこれは凄いことではないだろうか。
何十年前かにこの箇所に突き当たった時に非常に感動し、一人で興奮してしまいました。