#32インド編その8(リターンズ)

#32インド編その8(リターンズ)
2012-07-01 | Weblog

#32 インド編その8

at 2004 01/01 23:07 編集

早朝、カルカッタのハウラー駅に着く。フーグリー河に架かる巨大な鉄橋、ハウラー橋は通勤する人で丸の内のようにごった返している。喧噪の中、澱んだ河を見ながら私は一人、物思いに沈む。 「今日でインドともお別れだ。長かったようで短かった一週間。物売りや物乞いに辟易し、下痢や発熱に悩まされた一週間。騙されたりもしたけど、親切な人にも出会った。うるさいが、頼もしくもある子供たち。チャイ屋の売り声、灼熱の大地、道端で死んだように眠りこけている犬、漆黒の暗闇、ベナレスの炎、死体、サドゥー、カーリー女神に捧げられるために首をはねられる山羊」 様々な光景が次々に浮かんでは消える。けれどもインドよ、今日でおさらばすると思うと........、あ~嬉しいわいっ! とっとと日本に帰るぞ。帰って風呂に入ってうまいもん食ってゆっくり寝て下痢を直すぞ。こんな国、二度と来るもんかいっ。一刻も早く空港に行って飛行機に乗って文明国に帰るんじゃい。帰るったら、帰るんだ~い!
 帰りの飛行機で同年代の男と隣り合わせになった。どちらからともなく話しかけ、彼はパリでアパートを借りて住んでいたことやアジアのいろんな国を旅した話をしてくれた。私が海外旅行は初めてだと言うと、彼はこう言った。 「それならあなたはこれから何度も旅に出るでしょうね。一人で旅をする快感を覚えたら、それはやみつきになりますよ。僕がそうでしたから」 私はそうはならないだろうと確信していた。こんな苦しい旅なんか二度とごめんだ。
 成田空港に着くと私は激しい違和感を感じた。その違和感は日常生活の中でも長い間続いた。日本はなんでこんなに清潔で日本人はなんで異常なほど清潔好きなんだ? 日本人はなんで大したことでもないことをいちいち気にするんだ?(インド人は何があっても二言目には「ノー・プロブレム」って言うじゃないか) なんで商品には全て値段がついてる? なんでどこに行っても自動販売機があるんだ? なんでみんな、自分のことをすぐに不幸でビンボーだなんて言うんだあ? おまけにふと、インドの子供たちや大人たちの姿がちらついてきたりする。 
 「カルカッタは好きな街だよ」 仲良くなったホテルのボーイにこう言うと、彼は言ったっけ。「一週間の滞在では何も分からないよ」 そりゃ、そうだ。けれども分かったこともいっぱいあったぞ。旅が短いか長いかなんてのはあまり重要ではないと思う。果たして私は自分を変えることが出来たんであろうか? それは本人にはよく分からんが、インドで学んできたと胸を張って言えることなら、一つある。駅のトイレに入って、紙がなくてもちっとも慌てなくなった。どんなトイレでもバッチ来いって感じ。私にはインドで習得した、この黄金の左手がある。紙で処理するなんて、なんて不潔で野蛮ざましょ。あら、あたしも気づかないうちにインドかぶれかしら。オ~ッホッホッ。ちなみに帰国してから軟便が三か月続いたざます。(インド編終わり)

元(ハジメ)管理人の感想文と皆様への伝達事項
 インドはインド。日本は日本。一般的なテレビ番組の海外旅行記だとこういったお話はほとんど無いと思われます。
一回だけと思っていたら継続することになった経験がドリアン長野の場合は海外旅行でした。
清潔といっても大阪市内のある町の結核罹患者はアフリカ並みだそうです。日本でもいい加減なお店であれば景品表示法の存在をないがしろにして価格が明確化していない場合があります。一部のバーは有名でも小売店でも価格が分かりにくい場合があります。昨日の贅沢は今日の当たり前で貪欲な人が多いから日本人は強欲かもしれません。日本製が高品質なのはこだわりをもって製造しているからなんです。分かりやすいお話かもしれませんが、スズキ自動車がインドで成功したのは神経質な日本人が技術指導をしたからに他ありません。現在の所、日本だけでウォシュレットが普及しているようです。 旅行も大別すると快適な旅行と不快な旅行に分かれるようですが、今回は不快な旅行ではなかったようです。 皆様も海外旅行に行かれる際には胃薬を所持していかれるのを推奨します。
 次回のドリアン長野の海外旅行記(リターンズ)ニューヨーク旅行記にご期待ください。かの地ではヌーヨ~クみたいな発音です。
 

 回顧を兼ねた書評
 僕の初海外旅行は26歳の時のインドだった。
 当時往復チケットは年末料金だったので30万した(泣)。
 行く前は椎名誠の「わしもインドで考えた」を熟読。
 インドでは尻の毛まで抜かれるほどぼったくられ、下痢と発熱で散々だったけど、
 それからはリーマンパッカーとして主にアジアをふらふら。
 アフリカは遠すぎて行けなかった。新婚旅行もバックパックでバンコクと香港へ。
 香港では雑居房のチョンキンマンションで二泊し、妻はぐったりしていた。
 バンコクでは安宿と高級ホテルと泊まり歩き、マリオットのプールで
 溺死しそうになったのは今ではいい思い出だ(嘘)。
 旅も好きだが、旅行記も好きだ。
 この本は主にアフリカ旅行のエッセイだが、面白い。
 何よりも文章がうまい。
 奥さんとのなりそめを綴った「追いかけてバルセロナ」なんか疾走感があり、
 一気に読め、感動的でさえある。
 朝の通勤の地下鉄で読んでたけど、日本にいながら気持ちはバックパッカー。
 旅の本もいいけど、また出かけたいなあ。