#50 万祝(まいわい) (リターンズ)

#50 万祝(まいわい) (リターンズ)
2013-08-01 | Weblog

NO50 万祝(まいわい)

at 2004 09/14 18:41 編集

望月峯太郎原作のマンガ「万祝」の主人公、大和鮒子は父と二人暮し。格闘技好きで、異種格闘技部の主将をぶっ倒してしまうほど滅法強い(その動きから察するに、フルコンタクト空手と中国拳法を学んだようだ)。
「あたし強くなりたいの。誰よりも」。鮒子が強くなりたいのには理由がある。強くたくましく生きてね、というのが臨終の母の言葉だからだ。鮒子は5歳の時に動物実験のニュースを聞き、胃潰瘍になって病院に運ばれたほど心優しく繊細な子だった。母はそれを心配したのだろう。
今は亡き祖父の兆次郎は腕の立つ一本釣りの漁師だった。その祖父がどうやら、偶然に宝島にたどり着いたことがあるらしい。中米にあるその島にはなんと100兆円もの財宝が眠っているという。鮒子は16歳の誕生日の前日に祖父の手紙を見つける。それを長いが引用する。
「16歳になった愛する孫娘.....鮒子へ。もしワシが港町で幼少時代を過ごさなかったら、また青年になって魚師にならなかったらワシの人生はまったく別ものになったかもしれん。どんな人生がより幸福だったのかとワシの歳になってから運命の検証などしても意味などないだろうがの。だがワシはこれだけはわかる。おそらく今のお前の年頃に海に出ていなければ大人になる前の.....あの年齢のあの時代のまるで神でも宿ったようなめくるめく日々には遭遇できなかったに違いない。.....鮒子よ、ワシが今、憂うのはお前がそんな日々を経験せずに育ち、ただ尻や胸が大きくなり、赤飯を食べ、眉毛の形やスカートの丈に一喜一憂し、空虚さを飾りで隠した不幸な異性を見抜けないまま.....また、世の中の壮大なまでの美しさや醜さに気づかぬまま、ただ成長の必然的な結果として大人になってしまうことじゃ。お前の年頃には漁師だったワシは漁師の習わしにのっとった儀式を行うことで、周りに大人として海の男として認めてもらった。今、16歳になった...未熟で...かわいい孫娘よ、できればこの手紙と一緒に残した地図を手に船出してほしい。おそらくお前はこのまま時を過ごしても不自由なく人生を送れるだろう(特に女の子だから)。それはそれで多分、幸せなことなのだ。しかしワシはお前にも荘厳な洗礼を受けたと思えるような経験や、神が宿ったような日々だと実感できるような時間を通過してほしいんじゃ。それはいろんなことに向かい、苦しくなったり、寂しくなったり、泣いたり、時には闘わなければならないことに遭遇するかもしれん。しかしそのことによって、お前を取り巻くこの世界を芸術的に見ることができたり、人...いや、すべての生き物の営みに敬意をはらうことができたり、本物の懸想(けそう)の気持ちとはどういうものかを知ることができるはずじゃ。お前にめくるめくような.....取りも直さず.....黄金に輝く日々をー。 吉日 大和兆次郎」
私たちは毎日を人をけなしたり、恨んだり、羨んだり、自分の境遇に不平を言ったり、ただ退屈な日常をたゆたうように生きている。そんな人生が死ぬまで続くとしたら、その人の人生は不幸であるのに間違いはない。だけど、そんなものに人生が支配されるほど、人の気持ちがちっぽけな筈がない。この祖父が経験したようなことに遭遇するのは万人に一人かもしれないが、それをただ単に運が良かっただけだと決めつける人を、私は不幸だと思う。そしてこのじいさんを私は無性に尊敬する。じいさんは目の眩むような大金より価値のあるものがこの世にはあると言っているのだ。
物語は鮒子たちの船が宝島のあるパナマ海域に向かって航海を始めたばかり。これはもう一つの「ONE PIECE」。今後の展開が楽しみだ。

 元(ハジメ)管理人の感想文と皆様への伝達事項
 平成15年から平成20年にかけて連載されていた万祝。連載が始まったのは今からおよそ12年前なのですね。マンガが好きな人の間では平成20年の作品ということもあって記憶に新しいと思います。 今回はドリアン長野が赴いていないパナマへの海外旅行記についての感想文のようなものとお考えください。 本当はこのマンガの感想文の続編を期待したかったのですが、発表は不可能なようです。現時点では感想文の続編が発表されるようで実際には一回だけで終わった感想文といった具合です。 将来は不明です。 皆様は、万祝を読まれましたか?
以上、管理人元(ハジメ)でした。
 

 回顧を兼ねた書評
 僕の初海外旅行は26歳の時のインドだった。
 当時往復チケットは年末料金だったので30万した(泣)。
 行く前は椎名誠の「わしもインドで考えた」を熟読。
 インドでは尻の毛まで抜かれるほどぼったくられ、下痢と発熱で散々だったけど、
 それからはリーマンパッカーとして主にアジアをふらふら。
 アフリカは遠すぎて行けなかった。新婚旅行もバックパックでバンコクと香港へ。
 香港では雑居房のチョンキンマンションで二泊し、妻はぐったりしていた。
 バンコクでは安宿と高級ホテルと泊まり歩き、マリオットのプールで
 溺死しそうになったのは今ではいい思い出だ(嘘)。
 旅も好きだが、旅行記も好きだ。
 この本は主にアフリカ旅行のエッセイだが、面白い。
 何よりも文章がうまい。
 奥さんとのなりそめを綴った「追いかけてバルセロナ」なんか疾走感があり、
 一気に読め、感動的でさえある。
 朝の通勤の地下鉄で読んでたけど、日本にいながら気持ちはバックパッカー。
 旅の本もいいけど、また出かけたいなあ。