殺人犯はそこにいる  書評 平成29年11月

— ドリアン長野 (@duriannagano) 2017年11月19日 ">

文庫本の惹句「日本中に衝撃を与え、調査報道のバイブルと絶賛された事件ノンフィクション」。
幼女殺害犯として逮捕、17年間拘留され、死刑判決が出たのち無罪が確定され、冤罪として釈放された菅家さん。逮捕の決め手となったのは自供とDNA型鑑定だ。恐らく大部分の人がそう聞いて、本当は彼が犯人だろうと思うだろう。私もそうだった。しかし読み進めるうちに確信する。これは冤罪だ。著者は日本テレビの報道記者。執拗に事件を追い、丹念に情報を積み重ね、これは単独の幼女殺害事件ではなく、連続誘拐殺人事件だと確信を得る。しかも真犯人を特定するのだ。ついには国会でも取り上げられる。
「まえがき」に著者はこう書いている。
「何より伝えたいことがある。この国で、最も小さな声しか持たぬ五人の幼ない少女たちが、理不尽にもこの世から消えた。
私はそれをよしとしない。
絶対に。」
著者の思いは冤罪を救済することではなく、真犯人を捕まえることだ。著者は(私もそうであるが)死刑存置主義者である。
ノンフィクションにありがちな硬質な文章ではなく、時にユーモアを交えて、時に熱い情熱を持って真相に迫っていくのだが、読み進んいくうちに思う。警察、検察、まさかこんなことがあってよいのか。
最終章で真犯人に呼びかける部分がある。
「おまえには家族を突然に失って、その名を呼び続けたことなどないだろう。気が狂いそうになるほどの喪失感を、永遠に変わらぬその地獄を、おまえは知るまい。死を告げる乾いた声と、霊安室の床の冷たさと、そこに跳ね返る自分の声の虚しさを。少し前まで温かかった大切な人の身体が、手の先で、止めようまなく冷たくなっていく感触を。そして、家族が一人減った部屋の途方もない寂しさを。なぜ殺した。」
ページをめくるのももどかしく、「あとがき」にたどり着く。
……衝撃を受けた。ああ、そうだったのか。
今年も残すところあとわずかではあるが、今年100冊余りを読んだ本の中で文句なしにベストワン。この本に出会えてよかったと心から思う。

 

 回顧を兼ねた書評
 僕の初海外旅行は26歳の時のインドだった。
 当時往復チケットは年末料金だったので30万した(泣)。
 行く前は椎名誠の「わしもインドで考えた」を熟読。
 インドでは尻の毛まで抜かれるほどぼったくられ、下痢と発熱で散々だったけど、
 それからはリーマンパッカーとして主にアジアをふらふら。
 アフリカは遠すぎて行けなかった。新婚旅行もバックパックでバンコクと香港へ。
 香港では雑居房のチョンキンマンションで二泊し、妻はぐったりしていた。
 バンコクでは安宿と高級ホテルと泊まり歩き、マリオットのプールで
 溺死しそうになったのは今ではいい思い出だ(嘘)。
 旅も好きだが、旅行記も好きだ。
 この本は主にアフリカ旅行のエッセイだが、面白い。
 何よりも文章がうまい。
 奥さんとのなりそめを綴った「追いかけてバルセロナ」なんか疾走感があり、
 一気に読め、感動的でさえある。
 朝の通勤の地下鉄で読んでたけど、日本にいながら気持ちはバックパッカー。
 旅の本もいいけど、また出かけたいなあ。