言葉を失った。壮絶、とはこのことを言うのだろう。
世界最強のクライマー、山野井泰史と妻、妙子がヒマラヤのギャチュンカンの北壁に挑む。マイナス30度から40度に達する7000メートルの高地でほとんど垂直な北壁で苛酷なビバークを二日間。二日目はわずかなテラスもなく、ロープを二重にしブランコを作り、その上に腰掛け、一夜を明かす。彼らは酸素ボンベも持たない。しかも雪崩が何度も直撃し、二人とも目が見えない。
「肉体的にはかつてないほど追い込まれている。極限という言葉を簡単に使うことは許されないが、その近くまでは追い込まれているだろう。もうひとつ不測の事態に見舞われれば、最後の支えも切れてしまうかもしれない。
ー絶対に生きて帰る。
山野井は、ロープのブランコの上で、まったく夢を見ずに一時間ほど眠った。」
人間は無酸素で7000メートル以上に5日もいつづけることはできないというのが登山界の常識だった。しかし、いま、山野井夫妻は6日目を迎えようとしていた。
絶望的な状況下。壮絶な闘いの結末。
何度読んでも言いしれぬ感動を覚える、ノンフィクションの極北。
私はこの本を読んでからは辛い状況に会うと、自分の辛さなど、山野井夫妻の苦しみに比べれば何のことはないと思うことが習い性になった。その意味では私に大きな影響を与えた一冊である。
— ドリアン長野 (@duriannagano) 2017年2月2日 ">