令和三年十月の投稿



小学生の時のことだ。新聞を読んでいたら、同じ市内で理容店を経営しているという20代の人が投稿文を見つけた。
田舎の町の名前が全国版に掲載されるというのは子ども心にも誇らしかった。
それから何度もその人の投稿が掲載された。内容は日常のこと、時事問題、大ファンだという相撲のこと。
高校卒業後に故郷を離れてからは自分で新聞を購読し、その人の投稿を読むたびに故郷を懐かしく想った。
就職、何回かの引っ越し、結婚、子どもが生まれ、購読紙は変わっても投稿は続いた。
息子さんが小さい頃からの夢を叶えて相撲の呼び出しになったという投稿を読んだ時には身内のように嬉しかった。
50歳代のある日、帰省したおりにそのお店を訪ねてみようと思いついた。
少々迷い、道を尋ねながら緊張して店頭に立った。生家から歩いたら10分ほど。
それなのに40年以上もかかってしまった。
文章から謹厳実直な人を想像していたが、気さくな人だった。
髪を切ってもらいながら、ご主人と話題は弾んだ。投稿のこと、相撲のこと、息子さんのこと。
相撲ファンが投稿を読んで遠方から訪ねてくることもあるという。帰り際に投稿文をまとめて自費出版した本を二冊いただいた。
あれから4年、最近も横綱照ノ富士の投稿が載っていた。
自営業なので引退時期を悩んでいると言っていた74歳のご主人は今も現役でおられるようだ。
新聞が取り持つ故郷との縁。
毎朝故郷からの便りを期待して朝刊を開く。




「あたりまえ」
父が癌になって寝たきりになった時に母に言った。
「いいなぁ、お前は。歩くことができて」
母は数年前、転倒して大腿骨を骨折して杖をついてヨタヨタと歩ける程度で外出することはない。
何も持たない者が少し持っている者を羨み、少し持っている者は多く持っているようを羨む。このことは私に少なからず示唆を与えた。
この時、「飛鳥よ、そしてまだ見ぬ子へ」の作者、井村医師のことを思い出した。
井村医師は癌になり、片脚を切断した。そしてまだ幼い子どもと妊娠中の妻を残して亡くなった。
彼が残した詩がある。
「あたりまえ
こんなすばらしいことを、みんなはなぜよろこばないのでしょう
あたりまえであることを
お父さんがいる
お母さんがいる
手が二本あって、足が二本ある
行きたいところへ自分で歩いてゆける
手をのばせばなんでもとれる
音がきこえて声がでる
こんなしあわせはあるでしょうか
しかし、だれもそれをよろこばない
あたりまえだ、と笑ってすます
食事が食べられる
夜になるとちゃんと眠れ、そしてまた朝がくる
空気がいっぱいすえる
笑える、泣ける、叫ぶこともできる
走りまわれる
みんなあたりまえのこと
こんなすばらしいことを、みんな決してよろこばない
そのありがたさを知っているのは、それを失くした人たちだけ
なぜでしょう
あたりまえ」




ビルを貫く高速道路



ブレイディみかこ、福岡の進学校に入学したが周りは富裕層の子弟ばかり。
スーパーでのバイトが見つかり、担任に呼び出される。
バイトの理由を聞かれて通学の定期を買うため、と答えると「嘘をつくな!今どきそんな高校生がいるわけない!」と一喝される。
立憲民主党議員の福山哲郎、東京で父が経営する会社が倒産。
母と小一の弟と高一の彼。
夜逃げ同然で新大阪駅のホームでアルバイトニュースを買い、公衆電話で電話をして必死に頼み込み、翌日面接をしてもうことに。
土下座する彼に町工場の社長は「今日から働いてください。君が嘘をついているようには見えないから」
法哲学者の井上達夫、父が酒とギャンブルに溺れる。母が家出し、小五で頼み込んで新聞配達のアルバイトをした。
父が借金返済で引っ越すことになり、無理に頼んだ新聞配達を辞めさせてください、と言うと店主に「お前は無責任や」とビンタを食わされる。現在東大教授の彼は言う。
「私は逆境は人が生き抜くための知恵と気概を磨き、他者の優しさや他者の苦境への感応力を鋭敏にする。
この意味で貧すれば鈍す、は誤りである。貧すれども鈍せず、も不正確である。貧すればこそ鈍せず、が正しい」
36人の貧乏物語。無論この人たちは本に取り上げられているから程度の差こそあれ、世に出た人たちだ。
いや、逆境に負けなかったからこそ本書に取り上げられた。逆境というのは経済的貧困ばかりではない、もちろん。
しかし例えば映画「イヤーオブザドラゴン」NY市警のポーランド人、ホワイト警部が「君は本当の貧しさを知らない」と言うシーンが脳裡にこびりついていまだに忘れられない。




10月20日産経新聞朝刊に母との甲子園球場でのことを書いた「カープ女子」が「朝晴れエッセー」に掲載いただけることになりました。
よろしければご一読ください。




大阪市西区民の自慢は
① 堀江
うつぼ公園
大阪市立中央図書館
④ 京セラドーム
……だそうです。天王寺区から西区に引っ越して来たのが10年以上前だから今まで中央図書館で借りた本は1500冊以上になる。
今でも週に一度は利用していて、この図書館があるだけでも西区に引っ越してよかったと思っていました。
しかし!家族歴史を調べるために東大阪の府立中央図書館に初めて行ったところ、蔵書数も近代的な設備も素晴らしいすぎるでは内科外科。

#東大阪
#大阪府立中央図書館



空手バカ一代」連載中の1970年代の極真空手の人気はすさまじかった。
その冒頭には
「事実を事実のまま
完全に再現することは
いかに
おもしろおかしい 架空の
物語を生みだすよりも
はるかに困難である ---
アーネスト・ヘミングウェイ
これは事実談であり・・・
この男は実在する!!
この男の一代記を 読者につたえたい一念やみがたいので
アメリカのノーベル賞作家ヘミングウェイのいう「困難」にあえて挑戦するしかない・・・
わたしたちは 真剣かつ冷静に この男をみつめ ・・・ そして
その価値を 読者に問いたい ・・・ !!」
という言葉が書かれている。当時の少年たちはこの物語がノンフィクションだと信じて疑わなかったが、
実はそのほとんどが梶原一騎の創作であり、あろうことかこのヘミングウェイの言葉でさえも梶原の創作であった。
梶原の遺作の自伝作品「男の星座」然り、自身の経歴でさえ然り。
梶原の極真空手黒帯は名誉段であり、空手も柔道もスポーツの経験もなかったという。「巨人の星」で大ヒットを飛ばすが、連載当初は野球の知識もなかった。
ただ、後年の梶原一騎スキャンダルにあのような純粋な物語を書く作者と事件とを結びつけることの困難が長年疑問としてはあった。
その理由こそが虚偽であったとしたら。
最後に「純情」という著者がつけた真の意味を理解することになる。私は小島一志の一連の著書をほとんど読んでいるが、最も激しく感銘を受けたのがこの作品だ。
文中にある、精神科医が「梶原を典型的なADHDであり高機能性自閉症と見立てたように、梶原は一つのことを熱く、そして長く想い続ける過集中と共依存の傾向が強かった。
あくまで純粋性という意味で、梶原には徹底した一途さがあったと私は確信する。」
この言葉が全てではないか。その栄光と挫折と50歳で人生を閉じた梶原一騎の全てが。
あとがきに「SNSの友人たちも、参考になると思える資料を探し出すと次々に送ってくれた」とあり、参考資料・文献の項にそれが記載されている。
私も送らせていただいた。「妻の道〜梶原一騎と私の二十五年」と「梶原一騎、そして梶原一騎」の二冊である。
少しでもこの作品に寄与できたことを誇りに思う。




ニュースを見るたびに誰かに似てるなあとつらつら考えていましたが、元一水会鈴木邦男氏でした。
盧泰愚元大統領の御冥福をお祈りします。




東京都はただの地方自治体ではない。人口は1300万人、西欧の中規模国に肩を並べ、行政予算はスウェーデンの国家予算に匹敵する。
都庁職員数は約3万8千人、警視庁や学校職員、消防士まで含めば16万人。東京都知事は直接選挙で選ばれる東京国大統領なのである。
その首長として君臨する小池百合子テレビ東京のニュースキャスターを皮切りに環境大臣防衛大臣自民党総務会長、都民ファーストの会代表、希望の党代表などを歴任し、確固とした政策もなく権謀術数で都知事に登りつめた小池百合子
本書はミステリのように面白く、そして恐ろしい。あくなき上昇志向は素晴らしいと思うが、それがもし虚偽に満ちたものであれば。
よく言われるカイロ大学卒業の学歴詐称問題。しかも女性初の首席卒業だと本人は言う。虚偽ならば公職選挙法違反である。
現地人でも国立カイロ大学は留年が当たり前だというほど難しい。
小池のアラビア語能力では中学生の英語力でハーバードを卒業するようなものだと著者は言う。
もう一度言う。小池百合子を首長にいただく東京都は恐ろしい。
本書を読めばその恐ろしさがよくわかるはずだ。
#女帝小池百合子

 

 回顧を兼ねた書評
 僕の初海外旅行は26歳の時のインドだった。
 当時往復チケットは年末料金だったので30万した(泣)。
 行く前は椎名誠の「わしもインドで考えた」を熟読。
 インドでは尻の毛まで抜かれるほどぼったくられ、下痢と発熱で散々だったけど、
 それからはリーマンパッカーとして主にアジアをふらふら。
 アフリカは遠すぎて行けなかった。新婚旅行もバックパックでバンコクと香港へ。
 香港では雑居房のチョンキンマンションで二泊し、妻はぐったりしていた。
 バンコクでは安宿と高級ホテルと泊まり歩き、マリオットのプールで
 溺死しそうになったのは今ではいい思い出だ(嘘)。
 旅も好きだが、旅行記も好きだ。
 この本は主にアフリカ旅行のエッセイだが、面白い。
 何よりも文章がうまい。
 奥さんとのなりそめを綴った「追いかけてバルセロナ」なんか疾走感があり、
 一気に読め、感動的でさえある。
 朝の通勤の地下鉄で読んでたけど、日本にいながら気持ちはバックパッカー。
 旅の本もいいけど、また出かけたいなあ。